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光嶋裕介のエッセイ
第7回 第七便:『地面の断面としての地層、もしくは波』(VII/VIII)  2012年5月11日
制作者が意図したことを
鑑賞者が感知するというのもいいのだが、
それだけが正解というわけではないと思う。
そこに何を観て、何を感じ、何を想うかは、全くの自由なのだ。

要するに作品というものは、
制作されて人の眼にさらされた瞬間に作家の手を離れる。
であれば、
作品についてあれこれ述べるのは避けるべきかもしれないが、
僕の彫っている風景の中にあって
大切な存在なので説明したい。

横に細長い真新しい銅版に向かって一番最初に彫る線、
それは、地平線と決まっている。
その一本の地平線の上を幻想都市風景が彫られていく。
そして、一番最後に彫るのがその地平線の下にある、
地面の断面としての地層を表す線である。
これは、銅版画制作における僕にとっての大切なルーティン。

銅版画でなく、ドローイングを描く際も地平線を一番最初に描く。
しかし、アクアチントする版画と違って、
余白を意図するドローイングにとっては、
地平線の下は絶対的な無として残している。
銅版画では、そうはいかない。
なので、地面を切った地層を彫ってみた。
しかし、
その部分を多くの友人たちに「これって、波だよね?」と
平然な顔をして聴かれることが多数ある。
本当に何度も聴かれるのだ。
そして僕は「うん、そうだよ」と言ってしまった。
鑑賞者がいて、作家が育つ、そう信じてこれからも観る者との対話を続けたい。
きっと新しい発見がもっとたくさんあるだろう。
(こうしま ゆうすけ)

光嶋裕介
「Landscape at Night NO.009」
2010年
エッチング、アクアチント
イメージサイズ:12.0x30.0cm
シートサイズ:27.0x39.5cm
Ed.VIII+20
サインあり

光嶋裕介
「Landscape at Night NO.009 bis」
2011年
エッチング、手彩色
イメージサイズ:12.0x30.0cm
シートサイズ:27.0x39.5cm
Ed.1
サインあり

光嶋裕介 Yusuke KOSHIMA
建築家、一級建築士。1979年米国ニュージャージー州生。87年に日本に帰国。以降、カナダ(トロント)、イギリス(マンチェスター)、東京で育ち、最終的に早稲田大学大学院修士課程建築学を2004年に卒業。同年にザウアブルッフ・ハットン・アーキテクツ(ベルリン)に就職。2008年にドイツより帰国し、光嶋裕介建築設計事務所を主宰。2010年に桑沢デザイン研究所、2011年に日本大学短期大学部にて非常勤講師に就任。
光嶋裕介公式サイト:http://www.ykas.jp/index.htm

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