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尾形一郎のエッセイ
第1回 「ウルトラバロックについて」 2010年5月31日

 私たちが大学で建築の勉強をしていた1980年代は、世界を自由に旅する環境が整ってきた頃で、世界のいかなる辺境の街や建築でも実際に体験できるようになっていた。しかも見るだけではなくて、歴史調査の進展のおかげで、いろいろな時代の建築を知ることも可能になっていた。さらに人々の往来も増えてグローバル化も進んできた。しかし、建築というのは建てられる土地があって成立するものなので、その場所と無関係ではいられない。
 自分たちは日本という場所で何を選択したら良いのだろうと、最初はヨーロッパの辺境を旅した。スペイン南部、シチリア島、フィンランド、ポーランド、ロシアなどに、西欧文明と異文化の衝突している場所を歩いた。

尾形一郎・尾形優
「トナンツィントラ1-D」
1994年(2001年プリント)

 しかし、異文化融合を巡る旅はメキシコで転機を迎えた。私たちは何気なく立ち寄ったのどかな村で、古ぼけた聖堂の扉を開いた。するとイスラムやバロック、曼荼羅などが渾然一体となってできた小宇宙が広がったのだ。一神教の秩序に従おうとしながらも、内部から過去の時間が増殖し、その秩序から溢れ出てしまうような表現を見た。そこには、人間の心の奥深くにある濃密で混沌とした宇宙が、現実の世界に持ち出されていた。彼らが作った神の家は、可視化された人の心の総体だったのだ。

尾形一郎・尾形優
「プエブラ1-C」
1994年(1997年プリント)

 ヨーロッパに隣接する辺境地域にはここまでぶっ飛んだものは無かった。スペイン人がやってくる前のメキシコはそれこそ日本と同じくらい西欧文明からかけ離れた場所だったからだろう。西洋化されたメキシコの教会堂やアイコンは、まったく違う形で出来上がった一足早い近代日本の鏡像だったともいえる。
(おがたいちろう)

尾形一郎・尾形優
「トラコルーラ1-C」
1995年(1997年プリント)

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尾形一郎
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