中島秀雄のエッセイ「銀塩写真の魅力 ゾーンシステムを巡って」 第1回 2009年6月8日 |
写真は科学と化学、そして、アートがつながったもので、テクノロジーの進歩と共にその表現領域を広げてきた。従来の写真は、撮影のためのフィルムにしてもプリントにしても銀の化学変化によって画像形成するもので、暗室作業という独特のプロセスゆえに勘や経験と多少の忍耐と時間を必要とした。昨今、デジタル技術の飛躍は、写真の世界に大きな変革をもたらした。フィルムに代わる記憶素子とパソコン・プリンターによる処理に切り代わり、速写性や通信機能という面から見ればこれほどすぐれたものはない。
しかし、従来の銀塩写真に魅力が失われてしまったといえるかというとそんなことはまったくないと思っている。 学生時代、私は、プリンターに選ばれた。文化祭のための学年クラス作品提出のために全員のネガを集め、私がまとめてプリントすることになった。ところが、このときに集めたクラス仲間25人ほどのネガは、その濃度、ネガサイズはバラバラで、そのバラバラなネガからのプリント制作にはほとほと苦労したことを記憶している。 銀塩写真の大きな特徴は、言うまでもなくまずこのネガにあるといえる。そして、ネガ作りこそ銀塩写真の魅力の一つであり、強さであると思っている。 アメリカの有名な写真家アンセル・アダムスは、10代の頃、写真に深く関っていたが、すでにコンサート・ピアニストになる決意を家族の前で語り、メイソン&ファミリンのグランドピアノまで買ってもらっていた。しかし、ニューメキシコ州タオスへ撮影旅行に行ったときに、当時有名だった写真家ポール・ストランドに会い、彼のネガを見せてもらいその美しさに感動して写真家に転向してしまった。その頃、アダムスは、すでにすばらしい作品を創っていたが、やはりネガ作りには苦労していて、すばらしい銀塩プリントを創るための理想的なネガがあるはずだとたえず考えていたのだろう。たった一枚のネガが、1人の人間の人生を変えてしまったのだ。 (なかじま ひでお)
■中島秀雄 Hideo NAKAJIMA 1947年神奈川県生まれ。1968年東京写真大学(現・東京工芸大学)卒業。写真家細江英公の助手を経て1977年独立しフリーとなる。 1986年アメリカ・バーモント州 "ゾーンYワークショップ" に参加。1995年"ゾーンシステム研究会" を設立・代表。 公式サイトゾーンシステム研究会 http://hw001.spaaqs.ne.jp/zonesystem/ 「中島秀雄のエッセイ」バックナンバー 中島秀雄のページへ |
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