中島秀雄のエッセイ「銀塩写真の魅力 ゾーンシステムを巡って」 第3回 2009年6月19日 |
新たな仕事は、男と女がテーマになっていた。しかし、最初に仕上げたプリントではイメージが弱く、作品にはならなかった。次に、製版用フィルムに転写してネガを作ってみたが、これもうまくいかなかった。そこで、画像マスクを作ってプリント露光の際に光をさえぎる方法に切り替えてみたところ、これはうまく行った。しかし、画像マスクを操作するためにもう1人の助手を必要とするときもあり、結局、全作品の完成まで半年間、根気と集中力を必要とする仕事になった。写真表現の可能性を広げる貴重な経験にはなったが、いくらうまく行ったからといって私の作品を作ったわけではなく、満足感はすぐに消えてしまった。そして、この経験から私は、写真の全てを1人で進めるためには、撮影から現像、プリントまでのよどみない技法を構築しなければならないと考えるようになった。
一日の仕事が終わった後の楽しみは、写真集や海外から収集したオリジナルプリントを眺めることだった。ウィン・バロック、エドワード・ウエストン、中でもアンセル・アダムスのシャープなファインプリントには、印刷では味わえない深い黒から豊かなハーフトーン、そして、輝くようなハイライトに写真の美しさ、強さを感じ、写真に関ってきた幸福感、これからも写真を続けることの決意のようなものを感じさせてくれた。同時にどうしたらこんなプリントが出来るのか、写真が撮れるのか、新たな好奇心と欲望がプリントを持つ指先から伝わってきた。 仕事が終わるのは夜になることもある。この日は、いつもと違う本棚に目が向いた。写真集の黒い背表紙に挟まれ、黄色の小さな本に目が止まった。ZONE(ゾーン)という文字が目に入った。 (なかじま ひでお)
■中島秀雄 Hideo NAKAJIMA 1947年神奈川県生まれ。1968年東京写真大学(現・東京工芸大学)卒業。写真家細江英公の助手を経て1977年独立しフリーとなる。 1986年アメリカ・バーモント州 "ゾーンYワークショップ" に参加。1995年"ゾーンシステム研究会" を設立・代表。 公式サイトゾーンシステム研究会 http://hw001.spaaqs.ne.jp/zonesystem/ 「中島秀雄のエッセイ」バックナンバー 中島秀雄のページへ |
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