中島秀雄のエッセイ「銀塩写真の魅力 ゾーンシステムを巡って」 第2回 2009年6月15日 |
銀塩写真のネガは、版画の版木(原版)に似ている。版の良し悪しで、その後のプリントに大きな影響を与えるのもネガと同じだ。しかし、版木は試し刷りによって修整できるが、ネガ修整はほとんど不可能にちかい。それゆえに写真は、信憑性が保持されている。表現のためにあえてネガにキズをいれたりする写真家もいるが、二度と元に戻らない。しかし、一般の人たちはネガに興味を持つことはなく、写真家も見せない。実は、ネガには、それまでに費やした時間と空間、瞬間と永遠、現実と幻影、アイディア、思索、そして、生活のすべてが銀粒子の一粒一粒に埋もれているのだ。
私は、それまで、表現のためにはアイディアやコンセプトが大事で、ネガは付随的なものとしか考えていなかった。ネガの重要性を知ったのは、写真家の細江英公氏の助手になってからだ。細江さんは、写真作家としてすでに高い評価を得ていて、多くの作品を世に送り出していた。驚いたのは、細江さんの強烈な作品からは想像できないくらい几帳面にネガ整理が出来ていたことだ。ネガ台帳、コンタクトプリント、ネガファイル、そして全てに共通する通し番号が書き込まれ、ネガ台帳から日付、内容、番号を確認し、コンタクトプリントからネガを見つけることまでスムーズ進められるようになっていた。ネガやコンタクトプリントを見ることは、作家の創作プロセスや作品の秘密に触れることに等しく、夢中で眺めたことを記憶している。そして、さらに驚いたのは、作品のテーマに合わせるようにネガの様態は、それぞれまったく違っていた。ある作品には製版用のフィルムが多用され、別の作品には多重ネガ、他の作品には薄いネガというように、作品の強烈な個性の秘密はこれらのネガにあることを知った。 そして、助手の私は、ネガ作りからプリント制作までの一切をまかされるときがついにやってきた。 (なかじま ひでお)
■中島秀雄 Hideo NAKAJIMA 1947年神奈川県生まれ。1968年東京写真大学(現・東京工芸大学)卒業。写真家細江英公の助手を経て1977年独立しフリーとなる。 1986年アメリカ・バーモント州 "ゾーンYワークショップ" に参加。1995年"ゾーンシステム研究会" を設立・代表。 公式サイトゾーンシステム研究会 http://hw001.spaaqs.ne.jp/zonesystem/ 「中島秀雄のエッセイ」バックナンバー 中島秀雄のページへ |
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