ときの忘れもの 今月のお勧め
■2009年02月24日(火)  小川信治「WITHOUT YOU - GILBERT AND GEORGE」
grp0224164537.jpg 473×600 79K「WITHOUT YOU 〜 THE KID」
1999年
油彩・キャンバス
45.0×35.0cm
裏面にサイン付きシール貼付


2006年の大阪の国立国際美術館での個展でようやく小川信治の真価が多くの人に伝わってきたようです。同美術館のサイトによれば、「卓越した技術で多層的に交錯する世界を描き出す小川信治の個展です。小川は、泰西名画、絵葉書、写真、浮世絵などを元に、人物や風景を消去/追加/置換して描き直すことで、複数の世界が互いに干渉するモアレとしての「世界像」を紡ぎ出します。「WITHOUT YOU」シリーズから新作「モアレの風景」まで、映像作品を含めた六つの「多世界」を紹介します。」とありました。

もう少し詳しく言うと、小川信治が追求している絵画のコンセプトは二つあります
ひとつは、誰でもが知っている(既知の)映画や写真、名作絵画の一場面から、登場人物を一人消しさり、残された(描かれた)人物とシーンだけで場面を成立させた[WITHOUT YOU]シリーズ。もうひとつは、絵葉書や写真に、写っている人や物ひとつをもうひとつ描き込み、画面の違和感を問う[PERFECT WORLD]シリーズ。

これらは、「私たちが信じて疑わないもの、普通だと確信しているものが既に異形のものへと変化し始めているという直観につき動かされて制作を始めた」と小川は言っています。極めて伝統的な技法を用いながら、小川の精緻な描写力をもって初めて可能である大胆な試みをさまざまに展開し続けています。

ご紹介するのは、チャップリンの名作「キッド The Kid」のワンシーンをモチーフにしたものです。


小川信治 Shinji OGAWA(1959-)
1959年山口県生まれ。83年三重大学教育学部美術科卒業。97年・00年・03年にときの忘れものにて個展[小川信治展Without you]を開催。2000年豊田市美術館[空き地]展。03年東京・レントゲンヴェルケで個展。06年大阪・国立国際美術館[干渉する世界]展。

■2009年02月17日(火)  若林奮「UNDERWOOD-4」
nicky_20090217.jpg 480×630 102K「UNDERWOOD-4」
1989年
リトグラフ
100.0×78.5cm
Ed.30
サインあり
※レゾネNo.231

自然への深い思索と想像力によって、空間概念を根本的に問い直し、独自の存在感のある作品を生み、日本現代彫刻の一つの到達点を示した若林奮。
若林奮は、1960年代に鉄を素材として彫刻制作を始め、銅、石、木、鉛、硫黄と様々な素材を手がけて、若林が見るこの世界のヴィジョンを私たちに示してきました。そして、彫刻と並行して生涯に700点近い版画を制作しました。それは謄写版、木版、銅版、リトグラフ、シルクスクリーンなど、あらゆる版画技法を網羅し、彫刻として制作した焼きなまし銅板を刷るという独特の技法も展開しています。今回ご紹介するのは、53歳の頃制作した限定30部の大判のリトグラフです。

若林奮 Isamu WAKABAYASHI(1936-2003)
1936年東京生まれ。59年東京芸術大学卒業。62年二科展で金賞。67年第2回現代日本彫刻展で受賞。80,86年ヴェネツィア・ビエンナーレに出品。87年東京国立近代美術館・京都国立近代美術館で[今日の作家 若林奮展]を開催。96年中原悌二郎賞受賞。99年多摩美術大学教授。鉄や銅、鉛などの素材を使い、深い自然観に基づく思索的な作品を制作した。2003年芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

■2009年02月10日(火)  ヤコブ・アガム「Split Space(Silver)」
nicky_20090210.jpg 600×524 116K「Split Space(Silver)」
シルクスクリーン・コラージュ
45.3×51.5cm
Ed.90
サインあり

キネティック・アートのパイオニアの一人、ヤコブ・アガムの作品をご紹介いたします。
キネティック・アートというのは、動く美術作品、または動くように見える美術作品のことで、アレクサンダー・カルダーやジャン・ティンゲリー、日本では飯田善國などの作品が知られています。カルダーのモビールは、空気の動きが作品を変化させますが、アガムの作品は、主に観客が作品に触れたり、見る位置を変えたりすることで作品が変化して行くものです。「人生は、過ぎ行く影だ。だから、この地上のもので、動きのないイメージで捉えられるものはない。」というユダヤ教の言葉を視覚化していると言えるでしょう。
ご紹介する作品は、シルクスクリーンとコラージュのミクストメディアです。カラフルな格子の間に何となく文字のようなものが見えるようで見えない、よく分からない不思議な作品で、想像力をかき立ててくれます。

ヤコブ・アガム Yaacov Agam(1928-)
1928年イスラエル生まれ。本名Yaacov Gipstein。エルサレムのベツァレル美術デザイン学院で絵画を学び、その後、チューリッヒ大学などでも学んだ後、1951年パリに移住。1953年にGalerie Gravenで開催した最初の個展は、キネティック・アートに専念した作家としての美術史初めての個展として大成功を収めました。アガムの作品は、作品自体の運きや、観客による運動、光や音響を使った抽象的なキネティック・アートで、それらは、宗教家であった父親が探求していたものの視覚化を目指したものであると言われています。ニューヨーク近代美術館の『Double Metamorphosis 11』やハーシュホーン美術館の『Transparent Rhythms 11 』、パリのラ・デファンス地区の噴水などが良く知られています。また、見る角度によって違ったイメージを見せるレンチキュラーレンズを使った「アガモグラフ(Agamograph)」という技法を考案しました。

■2009年02月07日(土)  エルンスト・ハース「マリリン・モンロー、『荒馬と女』のセットにて、ネヴァダ州」
nicky_20090207.JPG 395×600 151K「マリリン・モンロー、『荒馬と女』のセットにて、ネヴァダ州」
1960年撮影(1992年プリント)
ゼラチンシルバープリント
43.0×28.7cm
Ed.100
Estate stampあり

映画の照明の脇に腰を下ろす女性。顔が見えないのに、この女性がマリリン・モンローであることがひと目で分かるというのがこの写真のすごいところであり、モンローのオーラなのでしょう。しかも、映画好きの方なら、これが1961年公開の映画「荒馬と女」を撮影しているときのカットであることも同時に分かります。「荒馬と女」は、興行が失敗に終わり、奇しくも主演の二人、モンローとクラーク・ゲーブルの最後の作品となりました。このモンローの後姿は、見ようによっては少し疲れて、寂しげに見えます。それは、彼女の最期を知っているからかもしれません。ハースには、それが見えていたのでしょうか。何かそんなストーリーを感じさせる一枚です。

エルンスト・ハース Ernst HAAS(1921-1986)
オーストリア・ウイーン生まれ。大学は医学部に通うが、1947年に雑誌「Heute」誌のカメラマンとなる。第2次大戦のオーストリア捕虜帰還を撮影したフォト・エッセイで名声を上げ、2年間パリで暮らした後、50年にアメリカへ移住。ロバート・キャパの勧めで写真家集団「Magnum Photos」に参加。52年、初めてカラーフイルムを使用し、ライカでニューヨークの街頭風景を撮影。この時の写真は『ライフ』誌に24ページ2部構成で掲載される。ハースはカラー写真でその才能を発揮し、巧みな色彩、ブレ、動きなど多くの手法を用い「エルンスト・ハースの色彩の世界」を確立した。62年、ニューヨーク近代美術館で個展が開催される。64年ジョン・ヒューストンの映画「天地創造」にスタッフとして参加、その後も「ハロー・ドーリー」(1969)「小さな巨人」(1970)などの映画制作に参加した。71年ハースにとって最高傑作となる写真集「THE CREATION」を刊行。75年、アメリカ建国200年の年に写真集「IN AMERICA」を出版。86年Hasselblad(ハッセルブラッド)賞受賞。『ライフ』誌を中心としたフォト・ジャーナリストの他、マールボロ、クライスラー、フォルクスワーゲン等の広告写真家としても活躍した。

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