フランスの象徴主義の画家。1840年ボルドー生まれ。15歳のときに画家のスタニスラス・ゴランから素描を学び、ゴランを通して知ったウジェーヌ・ドラクロワの作品などに感銘を受ける。また植物学者のアルマン・クラヴォーからの紹介で、エドガー・アラン・ポーやシャルル・ボードレールの文学にふれる。一時、画家ジャン・レオン=ジェロームの教室に通うが、新古典主義に順応できず地元に戻る。その後、ボルドーに定住していた放浪の版画家ロドルフ・ブレスダンに師事。ブレスダンのロマン主義的な作品から影響を受け、後の伝記的主題につながる。
普仏戦争後、素描家になることを決心してパリに移住し、木炭による素描を広く発表するための方法を模索する中、出入りしていたサロンでリトグラフ技法を教わり、これによって初の版画集『夢のなかで』(1879年)を出版。続いて、ポーの小説に着想を得た『エドガー・ポーに』(1882年)、チャールズ・ダーウィンの進化論を独自に解釈した『起源』(1883)を刊行し、作中では、世界を見通すための道具として「眼球」のモチーフを多用している。1888年から1896年にかけて、代表作となるギュスターヴ・フローベールの文学作品を題材にした石版画集『聖アントワーヌの誘惑 第一集〜第三集』を制作。幻覚を見るような魔的な世界を、「あらゆる色彩の中で最も本質的な色」とした黒一色で表現した。第三集に限り、初版と1933年版の2種類のエディションが存在する。
1916年没。